東京高等裁判所 昭和39年(う)1423号 判決
被告人 鈴木久雄
〔抄 録〕
所論は、原判示第一の被告人が別表第一記載の如く昭和三八年五月一日から同年九月二五日迄の間前後一二回に亘り河村商事株式会社から火薬類を譲り受けた行為について、原判決はこれを併合罪として処断しているが、右は被告人において、単一犯意のもとに継続して譲り受けたもので、いわば継続的商行為に該当するものであるから、これは包括的一罪として評価すべく、原判決はこの点において事実を誤認したか、法令の適用を誤つた違法がある、というのである。
火薬類取締法一七条は火薬類を譲り渡し、又は譲り受けようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならないこととし、これに違反した場合罰則(同法五九条)を以つて規整し、同時に火薬類の販売の業を営もうとする者は、販売所ごとに、都道府県知事の許可を受くべきものとし(同法五条)、この規定に違反した者に対し、単純な譲渡の場合と区別して特別な罰則(同法五八条)を設けているが、火薬類の販売業を営むため、火薬類を購入した場合についてこれを特別に営業犯として処罰する旨の規定を設けていないのである、そこで、そのことの立法の当否は格別とするも、同法の解釈として販売目的を以て、火薬類を譲り受け購入した場合については、原則として各譲り受け行為について同法五九条四号違反の罪が成立し、これらの各罪は刑法四五条前段の併合罪を構成するものと解すべきである。然し、それだからといつて、右の場合、右各譲り受けの各行為が全体として包括一罪を構成すべき場合にまで、その各譲り受けの行為を各別に独立の一罪として処罰しなければならないものとする趣旨は火薬類取締法の規定上どこにも窺えないのである。(かえつて、その販売を業とした場合については前記の如くこれを一罪とする旨の規定があるが、販売業を営むための火薬類の譲受を常に併合罪として処罰すべきものとすれば、同法五九条について所定刑中懲役刑を選択して処断すべき場合は格別、罰金刑を選択して処断すべき場合には、後者の方が前者の刑より重くなることがあり、場合によつて刑の権衡を失するにいたるであろう。)むしろ、火薬類の譲り受けの行為が全体として包括一罪を構成すべき場合には、火薬類取締法五九条の適用としても、これを一罪として処罰しても毫も支障のないものと解すべきである。ところで、本件記録及び原裁判所が取り調べた証拠、特に、河村貴の司法巡査に対する供述調書、被告人の昭和三八年一〇月二三日付司法警察員に対する供述調書によれば、原判示第一の被告人の河村商事株式会社からの火薬類の各譲受行為は、被告人と同会社との間に継続反覆してなされたものであり、それは被告人が火薬類の販売業を営む目的のもとに同会社から購入したものであつて、被告人の犯意の点から見るも、それは継続した一個の犯意のもとになされたものと認めるのを相当とする。そして、被告人と右河村商事株式会社との取引は、毎月二〇日締切、月末決済の約定のもとに取り運ばれていたもので、その購入のつど代金の支払をする等の行為があつたわけではなく、被告人と同会社との間の一個の継続的供給契約に基くものであつたと解すべきである。してみると、被告人の原判示第一の別表第一表の一二個の各火薬類の譲受行為を各別の独立一罪として処罰するのは相当ではなく、右は全体として包括一罪を構成すべきものと認むべきである。してみると、原判決が原判示第一の各所為を併合罪として処断したことは、事実を誤認したか法令の適用を誤つた違法があるものというべきである。論旨は理由がある。
(三宅 寺内 谷口)